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講演・論文
2006年7月 FACTA7月号 〜刮目すべし「麻生外交」の対中シグナル〜

手嶋龍一式 intelligence―3 
= 刮目すべし「麻生外交」の対中シグナル =

   政治家の見立てはむずかしい。麻生太郎というひとを見ているとつくづくそう思う。重心が高く、それゆえに失言が多い――。これが日本の政治ジャーナリストによって描かれてきた麻生太郎像だった。だが、外交を委ねられたこの保守政治家はいま、これまでとは違う貌を見せ始めている。にもかかわらず、メディアは使い古したプリズムで同じ見立てを流し続けている。
   麻生自身も多くの責めを負っている。メディアとまったくといってよいほど対話ができないのだ。少年時代に祖父である吉田茂首相のもとにおしかけた政治記者たちのバーバリズムにすっかり嫌気がさしてしまったためだという。本人も「新聞は読まない」と言うほどだ。このため講演会ではつい聴衆と直接対話を試みてしまう。それは間接民主制の煩雑さに耐えかねた政治家が直接民主制の誘惑に駆られるさまに似ている。
   ところが、その一問一答もぶっきらぼうで、真意を伝える補助線が引かれていないことが多い。そのため、せっかくの対話もしばしば失言としてメディアに報じられてしまう。「靖国神社に天皇陛下の参拝を」というニュースはこうして生まれ、韓国政府を激怒させてしまった。
   在京の欧州外交官のひとりがため息まじりに言う。
  「いやはや、もう始末におえません。この人が采配を振るう外交を公電に綴って本国に精緻に伝えるのはマクベス夫人を描くほどむずかしい」
   日本語を自由に操り、永田町の隅々にまで通じているこのアジア通の外交官も政治家麻生とその外交を等身大に見立てることに音をあげている。
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   だが、これには少し解説が必要だろう。このベテラン外交官は麻生発言の読みにくさに難儀しているのではない。麻生が外相として臨んだ外交演説が伝えるすっきりとしたメッセージと日本のメディアが流す麻生像の落差に戸惑っているのである。それほど麻生太郎が紡ぎだした外交演説は、論理の筋がすっと通り、委曲を尽くしたものなのである。こう書けば「演説は外交官僚の作文をそのまま読んでいるのだろう」という反論が聞こえてきそうだ。だが違う。外務官僚がスピーチライターなら麻生以前にも、これはという外交演説があっていいはずだ。麻生はスピーチライターを存分につかいこなしている初めての外相なのである。
   こうした麻生スピーチは、その多くが英語で行われたこともあって国内ではほとんど知られていない。外相に就任して手がけた重要な演説と投稿は三つに絞られる。第一に、逞しく成長するアジアで日本が果たすべき役割とは何かを示した日本記者クラブでの「アジア演説」。第二は、民主的な中国の台頭を歓迎すると断じた「ウォールストリート・ジャーナルへの投稿」。第三は、インド洋で給油にあたる自衛隊がいまや国際的な公共財となったことに自信を示した「NATO演説」。
   一国の外交・安全保障の全体像をつかむには、公表された政策と水面下のインテリジェンスをバランスよくつき合わせてみるがいい――。確かに正鵠を得た指摘なのだが、こと日本の対中国戦略については、苦心のすえ蒐められたインテリジェンスなど要らない。日本外交の最高責任者の手になる「アジア演説」がすべてを物語っているからだ。公開情報、畏るべし――なのである。
   この「アジア演説」で麻生は自らを楽観主義者だと言い「東アジアサミット」の創設に一条の光を見出している。明日は昨日より希望に満ちていると信じるアジアに在って、日本は「実践的な先駆者たるべきだ」と呼びかけた。そして「日米同盟の強固な耐久力を通じてアジアのスタビライザーたらんとする国」を目指すと述べている。そのうえで、日本はアジア諸国と対等な関係を結び、ともに繁栄を目指すとして、日本が歩んでいく道筋を示してみせた。
   そして中国が台頭しつつある現実を「待ち望んでいた事態」だと言い切り、その中国に「拒否権をちらつかせる国」から「建設的な勢力」に脱皮するよう促している。
   麻生外相から発せられた新しいメッセージを前に、王毅中国大使も公電の筆を執って北京にこの演説の意図するところを報告せざるをえなかったという。
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   だが、日本側がこれらの演説にいかに清新なシグナルをこめようとも、小泉首相が靖国神社を参拝する構えを続けている限り、東アジアの地に落ちる日本の孤影は、一段と深まっているようにみえる。いまや靖国問題は、小泉首相が言う「心の問題」にとどまりようもなく、国際社会から世界第二の経済大国を孤立させつつある。政治指導者の結果責任は重いと言わざるを得ない。
   こうした事態を何とか打開しようという動きが、中国の当局者とポスト小泉の候補者たちの間でひそかに芽生えつつある。
   このほど筆者は「中央公論」誌上で麻生太郎外相と対談した。そのなかで麻生外相は「靖国問題を打開するための3原則」を初めて明らかにしてみせた。
   まず、「靖国神社が戦後宗教法人になってしまったことで政宗分離を定めた憲法との抵触がいわれるようになり、もう天皇陛下がおいでにはなれません。靖国が政治的になってしまった」と述べ、靖国神社の非政治化をと提唱した。第二に「そもそもの間違いは戦没者を祀るという大事なことを一宗教法人に任せたまま、今日まできてしまったということ」と述べて、靖国神社の非宗教法人化が望ましいとした。第三に、戦没者を祀るという重要な事業を一宗教法人の運営に委ねることなく、国が責任を持てる形態への変更を提案した。
   対中外交に責任を持つ外相が、こうした新提案をしながら靖国へ参拝することなどあるだろうか。「靖国3原則」を示してみせた本当の意図はここにあるのかもしれない。政治感覚が鋭く研ぎ澄まされた中国人はその機微を察したのだろう。中東のカタールで1年ぶりに実現した日中外相会談では、事前の予想を裏切って穏やかな対応に終始してみせた。安全保障対話や制服組の交流をはかることで合意したのはその証左だろう。「勘のいい人なら、流れが変わったと気づいたはず」
   会談に同席した外務省の幹部は、中国側も関係改善の機をつかもうとしていることを示唆している。
   だが、地方選挙に大敗した韓国政府と日本のメディアだけが、国際政局の動きを捉え損なっている。日本のメディアも韓国政府も「緊急避難的な会談」と断じ、頑なな姿勢を変えようとしていない。この点では、インテリジェンス畏るべし――と言っていい。

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